第75章 退路を断つ

灰原仁司は、彼女をもう以前のホテルには泊まらせなかった。代わりに、別の場所を用意した。

灰原仁司が何かに気づいたのかどうかは分からない。けれど杏奈は感謝していた。少なくとも、あそこにいると自分が落ち着かないことを察して、すぐに宿を変えてくれたのだ。以降の配信もすべて灰原グループ内で行うことになり、もうどのホテルにも行かない。

エレベーターの扉が閉まる瞬間、杉浦杏奈は鏡に映った自分の冷えた顔を見た。

「もうすぐ……」

小さく呟く。

「借りは、ゆっくり返してもらうから」

チン、と到着音。エレベーターは1階へ。

杉浦杏奈がホテルの正面を出ると、黒いマイバッハが路肩に停まっていた。

...

ログインして続きを読む